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うっかり出戻りのテニプリblog。 立海→82と真幸。 ルド→赤観。 呟きとSS、ひょっこり絵。 基本は、マンガとゲーム。
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「僕は……」

――――ずっと貴方が好きだったんです。
そう観月が言った刹那、赤澤は総ての色を失った。
褐色の肌をしている筈なのに、それすらも褪せてしまう程、鮮烈な言葉だった。
血の気が失せ、真っ青な顔をした彼の驚きに観月は、静かに瞼を閉じる。長く綺麗な睫毛が、雫を弾いてワイシャツに落ちて行く。
何も声を掛けてはくれない赤澤の、驚いているだろう顔を見ないように頭を深々と下げた。

「もう、貴方と会う事は……二度とありません。最後まで僕の我が儘を、身勝手を、貴方に押し付けてしまう事を……許して下さい」

震える涙声を押し殺し、崩れてしまいそうな身体を必死で支えていた観月は、まだ物言わぬままの赤澤へ、今までの謝罪と感謝を残して立ち去るのだった。







「……まっ、待ってくれ観月っ!! 俺を置いて行くなっ!!」

――――お前の本心が、やっと知れたのに……
くるり、と赤澤に背を向けた観月は、靴の踵を響かせて歩いて行く。
彼の残した言の葉が、幾度も身体の中を駆け巡る。
余りにも衝撃的な……自分の事が『好きだった』と言い、涙を流した観月を、この腕に抱き締めたい。
赤澤は、驚きの余りに失っていた声を取り戻し、切なる叫びで名を呼ぶ。
駆け出して腕を伸ばし、観月の細い肩を捕まえようとするが、歩いている筈の彼に追い付く事が出来ずにいた。

「くそっ!! 何で歩いてるアイツに追い付けねぇんだよっ!!」

辿り着けない忌ま忌ましさを舌打ちで相殺して、背を向ける観月を捕らえようとするが……叶わなかった。髪を振り乱し、なりふり構わず大声を上げる赤澤は、足元を掬われもんどり打つ。そのまま地面に沈められた身体は、微動だにしなくなる。
大地に吸い寄せられ、自分の意志に逆らう身体がもどかしい以外の、何物でも無かった。

「待ってくれ、観月っ!! 戻って来てくれっ!!」
――――頼むから、俺を置いて行くな!!
腕を伸ばし、目一杯広げられた手の平は宙を踊る。指先は、観月の身体を掴もうともがき苦しむ。
叫びも、願いも、思いも……
遠ざかって行く彼には何一つ伝える事が出来ず赤澤は、目から大粒の涙を流し続け、小さくなる背中を見ていた。



***



「ぐあっ!!」

「だっ……大丈夫ですか、赤澤?」

宙をさ迷っていた赤澤の手を、しっかりと握り締めた観月は、心配そうな顔をして見下ろしていた。
目を大きく見開き、何か危険な空気に捕われ怖い表情をしていた赤澤は、間近にある今にも泣き出しそうな彼の顔を見、我を取り戻す。
未だ揺らいでいる心を落ち着けようと、息を肺いっぱいに空気を吸い込み、一気に吐き出した。
真っ青でいた赤澤の顔色に、赤みが戻って来たのに気付いた観月は、小さな安堵の息を吐いた。

「もう熱は引いたようですね……随分とうなされていたので、心配しました」

額に張り付いた赤澤の髪をそっと掻き上げ、浮いて滲んでいる汗をタオルで拭き取って行く。

「俺……」

観月の施しを上の空で受けていた赤澤は一瞬、通り過ぎて行った風の冷たさで我に還る。
夏の最中に風が冷たく感じたのは、顔だけではなく全身を濡らしている汗の所為だった。
観月が、ずぶ濡れになってしまっているユニフォームを、覚束ない手付きで脱がしに掛かった時、赤澤がポツリと声を発した。

「熱中症ですよ。急に目眩がすると貴方が言い出して……ベンチへ戻って来るなり、そのまま倒れて意識を無くしてしまったんですよ。ついでに言うと、此処まで裕太くんと金田くんが担いで来ましたから」

未だ少し痛む頭を抱えて呟いた彼の一言に観月は、このベッドで寝かされていた理由を全て答える。
そうか、等と思いながら記憶の糸を手繰り寄せるが、途中で切れているそれでは何の役にも立たなかった。
「少し腕を上げてください」

穏やかな声色でそう言われた赤澤は、彼の指示に従い両腕を天へと伸ばす。すると、ユニフォームの裾を一気に引き上げ脱がしてしまう。
驚いている様子にくす、と笑うと観月は、『汗で気持ち悪いでしょう』と言った。
確かに。
風が当たり、吸い込んだ汗が冷えてしまったユニフォームは、あまり着心地の良いものでは無く、出来ればさっさと脱いでしまいたいと思っていた。
観月は、それが判っていてか、普段では考えられない位に甲斐甲斐しく、そして優しく赤澤の面倒を見るのだった。

「少し冷たいですが、我慢して下さい。それと……部室に戻るまでは我慢して、これを羽織っていて下さい」

観月が『冷たい』と言ったのは、赤澤の身体を濡れたタオルで拭き、綺麗にしてくれたからだった。
そして、勝手に他人の物を触るのは失礼だし、部室まで移動する間だからと観月は、自分の着ていたユニフォームを肩から掛けた。

「……あ、ありがとう。」
全く身の丈に合っていない観月のユニフォームだったが、赤澤は嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。
見ていた夢の中では、決して辿り着けない、追い付けないでいた観月が、こんなにも近くに居て、こんなにも自分を見てくれて居るのが……嬉し過ぎて思わず涙を零してしまう。

「その涙は、酷くうなされていた所為からですか?」
側机に置いていたタオルを手に取り、見開いたままの瞳から流れ落ちる雫を、拭ってくれる観月は、落ち着いた声色で赤澤へ問う。
彼の台詞に頷いて見せ、夢の中での出来事を、感情を高ぶらせない様に気を払いながら話し始めた。







「――――そうですか」

肝心なところは観月に伏せたまま、他の部分はありのままを伝える。
話しを聞き終えた観月は、『夢の中でも僕は、酷い人間だったのですね』と自嘲めいた笑いをして見せた。彼の言葉を否定しようと、今はこうして傍に居てくれていると赤澤が叫ぼうとした刹那、肩へ掛けられているユニフォームごと観月に抱き締められた。
身丈が合わず開ききったままの胸元に顔を押し付け、抱き着かれた緊張で高ぶる赤澤の鼓動を耳にしながら……

「そんな夢、早く忘れて下さい。僕は……貴方が好きなのだから、貴方を絶対に置いて行ったりはしません」

観月は凛とした声で、こう言葉を紡いだ。







夢は夢、真は真。
20101110






うっはー
結構、日にちかかっちゃいましたが…赤観です。

奴が熱中症なんかには掛からないだろうと思いながら、今年の夏の思いを込めて…熱中症ネタ。
実際、自分は倒れたりはしませんでしたが、かなり追い詰められました…この夏は。
ご飯食べらんないし、身体だるいし、水分ばっかで体調劇悪だった…私の夏の思い出(T_T)




夢の中では幸せ、ホントは違う…ってのがセオリーかも知れませんが、観月さんの素直なとこが書きたかったので、ぶっ倒れてもらいました…赤澤吉朗(笑)





素敵ルドルフ本に触発されて…の赤観でしたが、少しでも楽しんで頂ければ幸です。
お付き合いの程、ありがとうございました!
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ふらり。
食堂に立ち寄ってみた赤澤の視線の先には、観月が小難し顔をして何やら呟いていた。
彼の視線は、机に広がった本やノートに向けられており、見られている事に気付かぬまま己の世界へ没頭する。

「この部分は……変更して、こちらは……と……」

資料に使われている本のページを幾つかめくり、ペン先で文字を辿る。重要と思わしき場所にはメモを張り付け、別のノートに書き写す。
それが終われば今度は、ひとまとめにされた用紙の束を引き寄せ、一枚ずつ目を通していた。

「どうして……上手く纏まらないんですかっ!!もうっ!!」

その作業を繰り返し、繰り返ししていた観月は突然、緩く波打つ柔らかな髪の毛を、力いっぱい掻きむしり大声を上げる。
余程、煮詰まっているのだろうと赤澤は、 掛けようとした声を飲み込み、その場を静かに離れた。
廊下を歩いて行く彼の背中を、食堂で唸り続ける観月の声が追い掛けて来ていた。



*****




「何故、僕の描いたシナリオ通りに行かない……えっ?!」

相変わらず資料と睨み合いを続け、声を上げている観月の元へ、食堂へ戻って来た赤澤は近付き、手にした物を机の上に置く。
突如現れた物に、当たり前だが驚いた観月は顔を上げ、健康的に焼けた手の持ち主を見上げる。

「それでも食って、頭冷やせば?」

そう言っているのだが、話しかけている当の赤澤の口には、観月の眼前に置かれた物と同じ……アイスキャンディーが鎮座していた。
早く食べないと溶けてしまう、と急かすように指差し突かれているアイスキャンディーの袋は、もう水滴が浮かんできていた。
資料の上にどっかりとあるそれを慌てて掴み上げ、鋭い視線を赤澤にくれてやる観月だった。

「大切な資料が水浸しになるでしょう!!もう少し考慮しなさい、赤澤!!」

「っつかそれ、溶けるの早ぇぞ」

「あ……は、はい」

これ以上、水滴を増やしたくないのか、はたまた赤澤の部長としての発言として受け止めたか。
間違いなく前者だが、促されアイスキャンディーの袋を開いた観月は、中身を取り出す。角があるはずのその四隅は、既に溶け始め丸みが出来ている。

「ありがとうございます。頂きます」

早く食べれば良いのに、持って来た赤澤に礼を言い、それから冷たいアイスキャンディーを口にした観月だった。






冷たい物が喉元を通り過ぎる感覚は、なかなかと慣れられないものだった。
しかめ面をしながらも観月は、少しずつ噛み砕いては飲み込む。胃の中が冷えるのと同時に、身体の末端、熱の上がった頭の中も冷えて行くのが分かった。
眉間に寄った皺や、釣り上がり気味でいた目尻が徐々に和ぎ、食べ終えた頃にはひと心地ついた様子だった。

「ご馳走さまでした。おかげで頭の中がすっきりしました、赤澤部長。あの……」

「金なんて気にしなくても良いよ。観月の役に立てたならさ」

冷静さを取り戻した観月は、アイスキャンディーとの事を合わせて赤澤へ礼を告げ、肝心な代金の話を持ち出した。
借りを作る事をあまり良しとしない性格故に、その辺りのけじめは付けようとする。
しかし、全く持って正反対の性格をしている赤澤は、豪快に笑って観月の言葉を一蹴してしまう。逆に、役に立てて自分自身が嬉しいと、満面の笑みをして見せるのだった。
観月が心密やかに好きでいる、赤澤のその笑顔を目の当たりにしてしまい、下がった筈の熱がまた振り返してしまいそうになる。

「あっ、ありがとうございます……今日は、ご馳走になります」

もう見ていられないと観月は、目の前で笑んでいる赤澤に、真っ赤な顔して改めて礼を言い頭を下げた。そして、そのまま彼を見返す事はせず、机に広がった紙の束へと視線を投げ、握ったペンを動かし始めるのだった。








「でさ、観月?」

「はい」

「さっきから何、頑張ってんだよ?夏休み入ってるし、今日から部活も休みで無いってのにさ、こんなとこで一人で……」

寮生のほぼ全てが夏休みで一時帰宅していると言うのに、寮には観月と赤澤だけが残っていた。
観月は山形からの上京者、短期での帰省をしないのは分かるが、赤澤に関しては……別に寮生にならなくとも自宅から十分に通える距離なのに、何故か寮に入り、尚且つ帰宅せず此処に留まっている。
彼には、彼なりの想いがあって寮生活をしているのだが、周囲へは適当にごまかしていた。
しかし、勘の良い木更津には、その本意を知られていた。
木更津が一時帰宅する際、赤澤に釘を刺して行くくらいに……観月の事を心に深く想い、少しでも長く傍に居たいとの願いを叶えるためだった。



自宅が割合近くにある癖に寮に残っていた赤澤と、二人きりで早速会話をする羽目になり内心焦っていた観月は、アイスキャンディーの一件もあり、文字でびっしりと埋め尽くされたノートを差し出した。

「読んでも……良いのか?」

「ええ。後少しで仕上がるんですが、どうしてもラストが上手く行かないんです」

赤澤は、観月からの了承を彼の口から得て初めて、その手からノートを受け取った。
そこには、登場人物の名前が書かれてあり、場面や台詞が事細かく、観月の指示もワンポイントで書き記されている。
正しく、観月がテニスにおいても描く『シナリオ』そのものだった。
読み進めて行くと、ごくごくありきたりな男女のラブストーリーで正直、淡々として面白みが感じられなかった。
唯、観月の凄い所は、その話の後ろ盾は完璧だった。その為の資料が、目の前にある机に広げられていたのである。
手にしていたノートをぱたん、と閉じた赤澤の顔を、観月は無言で見上げた。
目は口ほどに物を語り、どうですか? と感想を求めていた。

「ああ、良く出来てると思う……」

「そうでしょう! 此処までは完璧なんです!!」

喜々としている観月には非常に申し訳ないのだが、赤澤は眉間に皺を寄せ溜め息を吐く。
そんな赤澤の態度に、文句があるなら早く言いなさい! と、今度は目くじらを立てて睨み付ける観月だった。

「ここじゃ何だからさ場所、変えようぜ」

「は?!」

別にシナリオの事を話すだけなのなら、場所など変えなくても十分ではないか?
観月は思っていたが赤澤は、呆気に取られている彼とノートを手に食堂を後にした。





***





場所を変えようと観月とやって来た場所は、寮の屋上だった。
夕暮れ時のオレンジ色をした太陽が、雄大なその姿を地平線へと沈めて行こうとしている時間。
夏の盛りでまだまだ暑い日が続いていると言うのに、涼やかな食堂から屋上へと連れられて来た観月は、不満そうな顔をして設えられている鉄柵に身体を押し付ける。太陽を背にして腕を組み、不服な表情をしていた。

「いや、ホントに良く出来てたんだ。でも……」

「でも?」

「でも、単調過ぎて……面白くないんだ」

観月のプライドを慮って赤澤は、相手の求めている答えを躊躇いがちに小声で言う。
良く出来ていると言った癖に、面白くない?
その辺りが良く判らずに、毛先を指に絡めて遊ぶような仕種をして観月は、頭の中にあるシナリオを思い返して唸る。
やっぱり判らないと、困った顔をしたままの赤澤からノートを掠め、何度も何度も繰り返し読んだ。

「何処が、面白くないのですか?」

「何て言うんだろ……ドラマチックな演出が無くて、刺激が足りないと言うか……そんな感じ」

「あなたの言っている事は、漠然とし過ぎていて判り辛いですよ。きちんと説明しなさい!」

観月の剣幕に、ひと唸りする赤澤は、仕方ないと手にしたノートを彼の元へと戻す。そして、気になった箇所を指差した。

「ここから観月、女の子の台詞読んで」

「何故……ですか?」

「上手く説明出来ねぇから」

――――実践しよう。
そうした方が観月にも判って貰えるかも、と思っての判断だった。
悪い箇所を聞いた手前、今更断ることも出来ない観月は、女の子役に不服を感じつつ言われた通りにするのだった。



***



太陽は、地平線の向こう側へと姿を隠せば、それを追い掛けて月が地平線から昇って来る。
追われて、追って……
この二つ、互いに触れる事は出来ないが、人の心は追い続ければ伝わる事もある。
観月のシナリオには、人の心の『駆け引き』が足りないと、赤澤は感じたのだ。
テニスの駆け引きも同じ様なものだが、好き合う者同士のそれは情愛を伴うものだ。
観月へ、自分自身が抱える情が伝われば少しでも伝われば良い。
赤澤は淡い願いも織り交ぜ、実践を言い出したのだった。




「観月?」

「何ですか?」

「もうちょっと感情、入れようぜ」

淡々と読み上げてゆく観月の声に赤澤は、不服そうに文句を言うと、目くじら立てて怒り出そうとしている彼の手を引いた。
下方へ腕を引かれ、前のめりになるそのしなやかな身体を抱き留める。
何が起きたのか判かっていない観月は、動く事を放棄して赤澤の腕の中へ収まっていた。
ふわり、とした軽いウェーブのかかる髪を掻き上げ、隠れてしまっている頬と耳の辺りを露にしてしまう。ひやり、とした外気に曝された肌が震えた観月の耳元へ、赤澤の熱っぽい唇を押し当てた。

「は、離っ……してっ……!!」

「ほら……この方が実践的だし、ドラマチックだろう」

――――好きだ、観月。俺だけの人で居てくれ……

赤澤の大きな手が、観月の髪に添えられた。
これから自身に起ころうとしている事に怯えるその背を抱え、優しく撫でて落ち着かせる。
白く震える頬に赤澤は頬を寄せ、朱に染まりつつある観月の耳朶に小さく唇を押し当てたのだった。




怯えていた筈なのに……
観月は柔らかく笑み、赤澤の背に爪を立てていた。






Scenario
20100926





はいはいはい~
めっちゃ暇かかったし、いいたい事がブレ始めていた……赤澤誕生日小話でした。
しかも長い(笑)




これは…
赤澤の為に観月が書いた「シナリオ」でございました。
こうなる風に予見して書き、見事ハマった赤澤でございました♪



と言う訳で…
かなり遅くなっちゃいましたが、赤澤お誕生日おめでとう☆










とん――――と。
降り落ちて来た観月の身体を胸元で受け止めた赤澤は、両手をどこへ持って行けば良いか判らずに、宙を彷徨っていた。
柔らかそうな髪を揺らせて首を下げ、手のひらを赤澤の胸に添えた観月は、小さな子供が眠るように身体を丸める。
すり、と耳と頬を寄せ、身体も隙間なく寄せる。その瞬間、赤澤の鼓動がスピードを上げ、胸元に縋る観月の耳にも届けられた。心地よい響きに甘い息を零し、身体の温度を上げて行く。
パジャマの襟から垣間見える観月の肌は、先程手渡した薔薇の花色と同じ、仄かなピンクを映していた。
視線を下げれば、艶っぽい姿と出くわしてしまう。
いかんともし難いと赤澤は、両手を彷徨わせたまま首を明後日の方向へ、視界かに観月を入れない様にする。
ちら、と視線を上げた観月は、胸の内に居る自分ではなく、顔を真っ赤にして違う方向へ目を泳がせている赤澤に焦れ、先に声を上げた。

「……あ、赤澤」

「……なっ、何だ?!」

「いっ……何時まで狼狽えているんですか!!僕に恥ずかしい思いをさせたままにする気ですかっ!!」

本当に恥ずかしい思いで……
今の今まで観月は、自ら想い人の腕の中へ飛び込むなど考えもしていなかっただけに、間違った事をしたのだろうかと、彼の鼓動の移り変わりを耳にするまで不安だった。
しかし、赤澤の変化と表情を見て安堵するも、その赤澤本人はなかなかと動く事なく、ただ狼狽えるばかりでいた。
厳しい声を上げられた途端に目が覚めたのか赤澤は……折れてしまいそうな観月の身体を、彷徨わせていた両手でしっかりと抱き締めるのだった。




愛し君へ、この美しき花を。おまけ。
20100527





観月誕生日小話、おまけでございますが……
ホントの誕生日です!!
おめでとう、おめでとう観月!!


こんなヘタレな赤澤でゴメン……
でも、でっかいワンコは普段ヘタレてても男前なんだよね……
そんな姿、観月しか知らないよね(笑)


まだまだ初々しい赤澤を披露、でございました(汗)




改めて……誕生日おめでとう!!




『……観月、ちょっと良いかな?』

外はすっかりと夜の帳が降り、夕食を済ませた寮生達は、思い思いに自由時間を過ごしている頃。
木更津は、観月の部屋をノックして声を掛けた。
ちょっと待ってください、と室内から呼び声に返事をた彼は、慌てて身だしなみを整えドアを開く。

「どうかしましたか、淳?」

「ごめんね。お風呂も終わってるのに来ちゃって」

「大丈夫ですよ。それより急用ですか?」

「……うん。実はね……」
観月にしては控えめな、淡いブルーのパジャマに薄手のカーディガンを羽織り、室内から顔だけを出てみれば、木更津が困った面持ちで立っていた。
風呂上がりで未だ濡れている髪を、片手に持つタオルで押さえながら、小首を傾げてその困り顔を見つめた。
言葉を言い倦(あぐ)ねていた木更津は、視線をある方向へと動かす。すると観月も、それに習って首を動かした。

「――――なっ?!」

「ゴメンね……どうしてもって聞かなくってさ。じゃ……後、宜しくね」

二人が動かした視線の先には、寮生では無い赤澤が立っていた。
木更津は、観月の部屋までの道案内を頼まれただけだと、そんな意味合いの言葉を残し、自室へと戻って行った。

「こんな時間に悪いと思ったんだけどよ……」

陽に焼けた精悍な顔立ちを少し崩して赤澤は、茶けた髪を掻いてぽつり、小声で話す。
きっと観月は、迷惑をしているだろうと思いながらも、此処へ来る事を止められなかった――――とも言葉を付け加えた。

「……入って下さい。余り綺麗ではありませんが、どうぞ」

羽織っただけのカーディガンの襟を合わせ、開いた胸元を急いで隠すと観月は、彼を室内へと通した。

「ありがとう」

腕組みしている観月の横を赤澤は、大きな身体を少し小さくして中へと入った。






「それで……要件は何ですか、赤澤?」

室内へ通した彼に椅子を勧めた観月は腕を組み、胸元を隠して立っていた。
自然と大柄な彼を見下ろす形になり、その茶色くある髪の辺りを眺めていた。
すると赤澤は、不意に頭を上げる。自分を見下ろしている観月の瞳を、切れ長の眼を優しく細めて見つめて来た。
その表情に思わず息を飲んだ観月の時は止まり、白い肌を薄い朱色で染め上げた。

「誕生日だったろ、今日?」

「は?当たり前の事を今更聞かないで下さい。あなた達がお祝いをしてくれたでしょう?」

「そうなんだけどな……どうしてもコレを渡したかったんだ」

「なら、あの時でも良かったのではありませんか?」
自分を照れさせた事に半分怒りと、半分嬉しさを滲ませて赤澤の言葉を打ち返す。



**



観月は今日、歳を重ねて新しい一歩を踏み出した。
山形から出て来たのは、もう歳を三つ数える前。
周りの事は何も判らず、ただ自分の頭にある知識と、この意地だけで闘うつもりでいた。
しかし、いざこの地に入ってみれば……最初の頃こそは色々、それこそ本当に色々あったが今では仲間が居て、その中に観月の姿もあった。
自身の性格から群れる事は出来ないと感じていたが、こうして共に過ごせる仲間が出来たのは嬉しくもあり、擽ったくもあった。
そんな築かれた絆からか今年は、観月の誕生日を部員が祝ってくれたのだ。
サプライズな出来事に、驚きと嬉しさで思わず泣いてしまいそうになる観月は、得意の口撃で照れ隠しをしてしまい、ある意味賑々しい祝福をされたのである。


**



昼間に皆で祝ってくれたのだから、今、改めて誕生日だと言われても……と観月は困り果てる。
眉間に皺を寄せているが、言葉は何時もより弱々しくある声を耳に赤澤は、手に携えて来た紙袋を差し出す。

「みんながいる前じゃ恥ずかしくてよ」

そう言いながら彼は、観月の部屋の前に立っていた時のように、髪に手をやり一つ掻いた。
照れ隠しに笑うその表情に観月は、高くなる鼓動を夢中で押さえ、目の前にある紙袋を受け取った。
軽々と持っているものだから重みが然程無いのかと思いきや、意外と重量感があり目を丸くして赤澤を見る。
袋の口を指差して中身を見るように促され、その通りにする観月だった。

「あ!」

「これ見てたらさ、観月しか頭ん中に出てこなかった……受け取ってくれよ、な!」

その中に有った物は、可愛いらしいピンクの薔薇の花を咲かせた、手のひらに収まるくらいの鉢植えだった。
目を輝かせ、言葉は無くとも表情で喜びを語る観月に、赤澤も見ていて嬉しくなる。プレゼントを渡せて良かったと満足したのか、椅子から立ち上がり帰る旨を告げた。

「観月の嬉しそうな顔見れたし、迷惑だろうから帰るよ」

「まっ、待って下さい!」
「これ以上、長居しちゃマズいだろう?」

「まだ大丈夫です……だから、あと少しだけ!!」

――――それに、お礼も言ってませんから!!

赤澤の羽織っているシャツを片手で掴んだ観月は、帰らないように願い出る。そして、片手に持っていた紙袋を机に置き彼を見上げると、プレゼントされた薔薇の様に可愛らしい笑みをして見せた。
今度は赤澤が、その華やいだ表情に、胸の高鳴りを抑えられなくなる。

「ありがとうございます。あなたから頂けるとは思わなかったので……本当に嬉しいです」

赤澤の熱を持て余す様を知ってか知らずか、穏やかな笑顔を携えたままに彼の首元に両腕を巻き付けた。
柔らかな抱擁をし、薄い布越しに彼の温もりを感じながらもう一度、ありがとうございます……と胸元に顔を埋めて伝える観月だった。





愛し君へ、この美しき花を。
20100521





やっと出来た…(涙)
結構、難産でした。
やりたい事は決まっていたけど、上手く動いてくれなくて……慣れてないのが一目瞭然!


少しだけ余談があるので、また折りを見て書ければ……と思ってます。
下の真田誕生日小話みたいに分割(汗)





観月には花……だよな~と思い、赤澤からプレゼントして頂きました。
みんなからも貰ってるだろうけど、彼から貰える花は格別……と言いたかったのでした(笑)




これまたフライングですが観月、お誕生日おめでとうございます~
赤澤を傍に、幸せな誕生日にしてくださいね!!




――――雨が……

室内に居ても判る程の雨音に、机に広げた資料へと視線を落としていた観月が顔を上げる。すると、暗雲を走り抜ける稲光と、激しく降り続く雨粒が視界に飛び込んできた。

「……まだ、残っているかも……」

スクールへ行き一足早く部活を終えていた観月は、部屋に立て掛けていた傘を手に寮を飛び出した。



***



降り続く雨が一向に収まる気配を見せない空を、部室の中から困った顔をして見上げる赤澤は、どうしたものかと考えていた。
濡れて帰るのも構わないが、公共の交通機関を頼り帰宅する彼には、それは駄目だと案を蹴る。
職員室で借りようかとしたが、部室から校舎への移動だけでも一苦労しそうだと、これも却下した。
止むまで待つのが一番かと結論に達した時、部室のドアが開け放たれた。

「やはり、残ってましたか」

「あれ?観月、何で?」

「何もありませんよ。赤澤、傘が無いのでしょう?僕のでは嫌かも知れませんが……使ってください」

赤澤の質問には答えず、手にしていた先程まで雨水を盛大に浴び、水の滴っている傘を差し出した。
それは、大柄な赤澤が差すにはとても華奢な作りでいて、色合いも観月らしい感じのだった。
一瞬、躊躇った表情をした赤澤は、やんわりとした断りの言葉を発する。

「ありがとう、気持ちだけ貰っとく。もうすぐ止むだろうから、ここで大人しく待つさ。止まなかったら濡れて帰るし」

濡れて帰る、と言った瞬間、観月は語気を荒げて無理矢理に傘を赤澤に握らせた。

「あなた馬鹿ですか?!近々、練習試合があるのですよ!濡れて帰って風邪でも引いたらどうするんですか!!貴重な戦力ですし、部長不在だなんてとんでもない!!」

――――無いよりはマシですから、恥ずかしいでしょうが使って下さい。

赤澤の躊躇った理由を見通していたのか観月は、試合を引き合いに出し、我慢して使って欲しいと説得する。
その顔つきと迫力に押され、不似合いな傘を手に頷く赤澤だった。

「では……気を付けて」

強引ではあったが納得した彼の頷きを見てふわり、と笑んだ観月は、そのまま部室を立ち去ろうと背を向ける。
刹那。
力強く腕を引かれてしまい、身体が揺れた。

「えっ?」

「お前、自分は濡れて帰る気か?」

「ええ。傘は一本しかありませんし、仕方ないでしょう。雨足が収まってきたので寮までの距離くらい、大したこと……ちょっと?!」

「じゃ、俺が寮まで送ってやる」

引いた腕を支えにして観月との距離を縮めた赤澤は、彼の肩を抱き込み引き寄せる。
好きな人の温度と鼓動を間近で感じた観月は、頬を朱にして俯き、口をつぐんでしまうのだった。




傘と、君と。
20100425






心配で心配で仕方ない観月と、どうにかなるだろうな赤澤でした。


現在、大阪肌寒いですが、晴天です(笑)
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